同窓会会報 Vol.39より


ご卒業おめでとうございます

放送大学北海道学習センター
所長 新田孝彦


 皆様、このたびは放送大学のご卒業、まことにおめでとうございます。緊急事態宣言下のために学位記授与式は中止とせざるを得ず、心苦しいかぎりですが、皆様には書面をもってご挨拶申し上げます。
 放送大学で学ぶ方は、その目的も、学び方も実に多様ですが、全科生の皆様は特に、それぞれ何がしかの制約や困難を抱えての学修だったのではないかと推察いたします。今学期は全道で86名の方が卒業を迎えられましたが、放送大学の教職員一同、まずはその努力に対して敬意を表します。また、放送大学のシステムをうまく活用し、ご自分の学びの幅を広げて特別賞を授与された方々にも、心からお祝い申し上げます。今回は、全6コースを卒業し名誉学生の称号を得た方もいらっしゃいますが、この方はすべてのコースを最短の年限で終えられるというすばらしい成果を上げられました。本当におめでとうございます。
 ここで、皆様の卒業を祝して、大学を卒業するということの社会的な意義について、私からの期待を込めて少しお話をしたいと思います。
 ご承知のように放送大学の学部名は「教養学部」です。このことの意味を少し考えて見ましょう。いまは世界各国に「大学」という高等教育機関が存在しますが、この「大学」という教育システムは、ヨーロッパ中世の末期、11世紀に誕生しました。「ユニヴァーシティ」という言葉の元はラテン語ですが、これは皆様も世界史で習ったことがある「ギルド」や「ツンフト」という言葉と同じく「同業者仲間」あるいは「組合」という意味でした。それでは、大学はどんな同業者の集まりかと言えば、それは、学習意欲に燃える「学生団」と教育に情熱をもった「教員団」という二つの集団の集まり、一言で言えば「学問によって結びついた仲間」というのが「大学」という言葉の本来の意味だということになります。もちろん、複雑な組織である現代の大学では学生も教員も「事務職員」の力によって支えられていることを忘れてはなりません。ちなみに「宇宙」も「ユニヴァース」と言いますが、これも語源は同じで、「一つにまとまったもの」という意味です。
 さて、この大学の中で「教養学部」は、神学部や法学部、医学部といった専門学部に進むための前段階として「リベラル・アーツ(自由学芸)」を学ぶところでした。放送大学の教養学部も英語標記は"Faculty of Liberal Arts"と言います。この「リベラル・アーツ」それ自体の歴史は古く、古代ローマに遡ります。当時は七つの科目(文法、修辞、弁証、算術、幾何、天文、音楽)で構成されていたために「自由七科」とも言われますが、たんなる「七科」ではなく「自由な」という形容詞が付けられているのはなぜでしょうか。この言葉の名付け親である哲学者キケロによれば、それは、これらの科目が奴隷ならぬ自由人にふさわしい学問だからというところにあります。つまり、(奴隷制の是非については脇に置いておきますが)奴隷には確かに彼らに課せられた家事や農作業に関する最低限の実用的な知識は求められますが、それ以上の知識は必要とされていなかった、というよりはむしろ禁じられていました。実用を離れた「真理そのものの探究」という営みは自由人にのみ許された、いわば知的な贅沢であったわけです。加えて、この「自由」という言葉には、「学問が精神を自由にする」という意味も含まれていました。キケロは、「純粋に真理を求めて学ぶ」ことは「魂を耕すこと」だと語っています。作物を豊かに実らせるためには、種を蒔く前に土を耕さなければならないように、魂もまた豊かな果実を身につけるためには、柔らかく解きほぐされなければならないということだろうと思います。つまり「無知や、無知に起因する偏見から精神を解き放つ」ということ、この意味で学問はわれわれを自由にするということです。
 このように考えて見ますと、大学を、とりわけ教養学部を卒業することの意義についても、新たな視点で捉え直すことができるのではないでしょうか。大学を卒業し学位を取得するということは、大変に誇らしいことであり、個人の歴史の中で大きな意味を持ちます。しかし、皆様には、この卒業をただ個人的な出来事として記録し、記憶するだけではなく、一人ひとりが「無知や偏見を免れた自由な精神」をもつことが「自由で寛容な社会」の実現につながるということ、そのためにこそ教養学部は存在するのだということ、つまり大学で学んだことの社会的な意義についても時折思い起こしていただきたいと思います。
 もちろん、学ぶということに終わりはありません。生涯学習のあり方は一人ひとり異なって当然ですし、放送大学で学ぶことだけが生涯学習ではありませんが、どうぞ皆様も、今回の卒業を機に、生涯学習の新しいステージに向けて歩みだしていただきたいと願う次第です。皆様の今後のご活躍を心よりお祈りいたします。
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう